032 桜(さくら)


拾い上げた薄紅に
あなたはあいという名前を与えた

僅かながらに風に揺れて
美しいまま身を投げてゆく

それならば何故?
生まれて来なければよかったのに

そう思う人間の危惧は
愚問として終わるだろう


永遠とわではなく刹那せつなに生きる
その姿に理由などなくて

ただ

風に乗った一片に
誰かの目を留められるなら
地面に伏した一片に
誰かの心揺り動かせられるのなら


拾い上げられた薄紅は
あなたにあいという名前を語った

そして今年も
誰かの心を咲かせるために
満開の命が輝く


哀しいからこそ愛しい
最後の一片が舞い落ちるまで 





033 時間(じかん)


昨日見た夢にあなたは居なかった
もう逢えないとは分かっていたけれど

子供染みた願掛けは 私 とても得意なの
風通しの良い窓辺に 身体を任せては祈ってる

私の過ごす毎日にあなたは居なくなった
もう探さないって決めてたのだけれど

寄り添うものを失くした人って
何かが足りないガラクタみたい


時間は明日に向かってる

それが良いものをもたらそうとするにしても
悪いものを引き継ごうとしているにしても

だから

振り返っても 涙流しても 笑っても
今までの様にはいかない よ


それでもね

いくら時が経ったとしても
多分 ずっと私は一途な女を気取っているはず

遠影のあなたを追いかけてる

苦し紛れの ワガママ




035 シャボン玉(しゃぼんだま)


液体の雫に空気を入れられ
棒の先から空へと飛翔する

どのシャボン玉も
空高く昇って行こうと
願っているのかもしれない

しかし
その願いも虚しく
ぱちんと小さな悲鳴をあげて
あっけなく消えてしまう

その脆さ故に

僕は好んでシャボン玉を作り出し
目の前で繰り広げられる
生と死の瞬間を楽しんでいる
まさに僕は創造主ではないか

喩えれば
作り出されるシャボン玉が人類で
創造主が神 だろうか


そこまで考えて
僕はぞっとした


神はこういう気分なのか


ぱちん 

小さな悲鳴をあげて
またひとつ シャボン玉は消えた




039 切断(せつだん)


これで 最後の再会
俯いた二人

もう何も言えなくて
ただ地面を見て 黙ってた


僕の悪いところ
そういう大事な時に
逃げて逃げて 曖昧にしてしまう

君の悪いところ
責められた時には
視線を泳がせて やり過ごしてしまう


形がないから気付いちゃいない
自分のことじゃないから知らない

ごもっともな弁解
確かに理由は分かる  けど


いつも不安になるんだ
こうなるまでに
止められたんじゃないかって

もう幕は切られてしまった


(せめて、僕から別れられたのなら)




040 喪失感(そうしつかん)


「確かなものをみつけたくて」

さまようわたしはまた 不確かなもの


こぼれてしまった あらゆるものから

もう つかめないしもどせない
でも かんしょくはわかるんだよ

「つめたくて気持ちいい」


ゆれるみなもに顔をうずめた
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 














 



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