051 何度でも(なんどでも)


止むこともなく

止めることもなく

夢の中で垣間見た
過去の片鱗が浮かんでは
凍りついて消え去ってゆく


思い出してはいけない

そう 何度も何度も誓うのに

気持ちと行動はまるで裏腹
自ら求めては後悔するだけ


それでも

記憶を辿るだけで あなたは生き生きと動き出し
鮮やかな虹の足跡をわたしの心に架けるのだ
柔らかな微笑みをわたしに向けて与えるのだ

思い出させずにいられようか

何よりも 大切だった あなたを


だから

どんなに辛くとも
又 あなたに逢えるというのなら

目の前が涙でにじむのを堪えながら

わたしは凍った記憶を辿ろう
好きだった と遅すぎる告白をしよう




053 偽物(にせもの)
 

どんなことも従順にこなせば丸く納まると思ってたし
多少の気の緩みは許される そう思ってたから

嫌なこともはっきり嫌と言えず

今まで苦し紛れに肯定してきた

肯定された否定の限度を超えたとき
焦りだす 自分がいる

そんな偽者の自分が 私は嫌いだ


―甘すぎる考えは自滅を招く
引き返せ 今すぐ引き返せ
お前の「本当」は何処にある

まだ間に合う 早く戻れ―


ああこれだから
私は自分に叱咤されて
大きく道を逸れていることに気がついた

気づいて良かった
早く戻らなきゃ
せかせかと私は動き出す


早く進まなければ  闇へ墜ちてしまう前に
早く進まなければ  光が前に見えている内に




054 人形(にんぎょう)


―・・・ある日小さな声で彼女は語りました―


・・・嬉しかった
目の前にあなたが現れた奇跡を あなたは必然だと言い
私を光のなかに導いた
幸せだった
お側に居させてもらい 存在する場所を与えてもらって
特別優しくしてもらった

それと同時に

感じていた
決してあなたの望む完璧にはなれないということを
不安だった
本当に愛してくれてはいないのかもしれないと

それでもあなたは 私を求めてくれたから
私はあなたに 身を尽くすでしょう


私はあなたのお人形
あなたのために生まれたお人形

遊び相手になって
飽きたら捨てられる定め


壊すのなら仰せのままに

どうかあなたの幸せのために・・・


―人形は虚ろに微笑んだまま やがて動かなくなりました―




056 願わくば(ねがわくば)


偶然 という規則に縛られなければ 

あなたのとなりに身をおくことは 出来ないのでしょうか

そしてあなたがそばにいるということも

単なるその規則の所為なのでしょうか



もし 宜しければ


どうぞ近くに居て下さい



手を伸ばせば 届くはずなのに

時々 あなたがとても遠く感じるのです



もう永遠に


逢えなくなる様な 気がするのです




058 残り少ない(のこりすくない)


ねぇ もう終わってしまうの?

この世に生を受けたのだけれど
小さなあなたには余りにも世界は大き過ぎた

ねぇ もう行ってしまうの?

たくさんの人に見つめられ 愛されたけれど
宿した光は余りにも儚く脆かった



揺らぐ炎は徐々に小さくなって

それでも最後まで
美しくあり続けようと 身を焦がして踊った


「あなたが微笑んでくれたから
使命は充分に果たせました」


そう言って もう蝋燭は何も言わなくなった

ひとりひとりの心にあたたかい灯火を
それだけを願って光は輝いていた

たった一息で 簡単にあなたは終わってしまうのに


せめて消えるまでは
残り火の煌めきを 綺麗でいさせて




050 バケツ(バケツ)


世界中にある バケツ

ある街の少女は
このなかに涙を
身体中の悲しみを注いだ

ある戦地の少年は
この中に泥水を集めて
幼い兄弟に分け与えた


わたしの前にバケツがひとつ

消毒された透明な水が
汲まれ渦巻き溢れている

無感動な水音
一定の量を保っていつまでも流れ
蛇口さえ捻れば自由に操れる


それだけ、

あったとしても
今のわたしには
萎れた草花に与えること位しか
何も出来ずに

考えているその瞬間に

またいのちが枯れてしまいます

















 


inserted by FC2 system